LOGIN継続審議になってから、十日が経った。
その十日間、表向きは静かだった。 橋が止まるようなことはなかった。調査の男が来る気配もなかった。クロヴェルから直接的な動きは、何もなかった。 フィオナは「嵐の前の静けさだと思っておいた方がいい」と手紙に書いた。 エリナも同じように思っていた。 だから、静かな十日間を、全部使った。まず、薬屋の第三者データが揃った。
マグダがヴァロウの薬屋を説得し、ジルカがキーシュの薬屋二軒から記録を取り寄せ、シェナがトレネの薬草専門店の販売記録を持ってきた。 ゴードンがそれをすべてまとめた。 四つの町、三つの業種、一年半分の販売記録。 石鹸が普及し始めた時期から、共通して同じ変化が起きていた。腹下しの薬の販売数が減り、傷口の化膿に使う膏薬の販売数が減り、発熱の薬の販売数が減っていた。 一つの町だけなら偶然かもしれない。 四つの町で、同時に、同じ変化が起きている。 「これは、偶然では説明できない」ゴードンが静かに言った。
「そうです」エリナが頷いた。
「次の審議の前に、学院に送る」
「レインさんに?」 「レインと師匠に。二人が使いやすい形で」 ゴードンが三日かけて、学院向けの報告書に仕上げた。グラフの代わりに、変化の割合を数字で丁寧に示した表を作った。文字だけで見ても、変化の大きさが伝わるように。 分厚い封筒が、学院へ向けて旅立った。次に、各町の現場責任者たちと、初めて一堂に会する機会を作った。
マグダ、シェナ、ジルカの三人を、ルシェムに呼んだ。 エリナ、マリオ、ルナ、ゴードンと合わせて、七人が長屋の事務室に集まった。 狭かった。椅子が足りなくて、マリオとジルカは立っていた。 「狭くてすみません」エリナが言うと、マグダが笑った。
「気にしない気にしない。あたしの家の台所より広いよ」 シェナが窓の外を少し見て、静かに言った。「ルシェム、初めて来た」
「遠かったですか」 「遠くなかったよ。道が思ったより良かった」 「迂回路を整備した効果かもしれません」 「馬が気持ちよさそうに歩いてた」 ルナが隅で猫を膝に乗せながら、三人を順番に見ていた。目が合ったジルカが少しだけ驚いた顔をしたが、ルナは特に何も言わなかった。会議は、二時間かけて行った。
エリナが各町の現状を共有し、ゴードンが数字を説明し、次の半年でやることを全員で確認した。 途中、マグダが言った。 「一つ、聞いていいかい」 「どうぞ」 「王都でごちゃごちゃしてるって話、聞こえてくるけど。大丈夫なのか」 エリナは少し考えてから、正直に答えた。 「大丈夫とは言い切れません。クロヴェル家が、私たちの販売活動に規制をかけようとしている。今は止まっているが、次が来る可能性がある」 「そうか。で、私たちにできることはあるか」 「あります。今やっていることを、続けること。数字を記録し続けること。それだけで十分です」 「派手なことじゃないんだね」 「派手なことより、地道なことの方が、最終的に強い」 マグダがしばらくエリナを見てから、うんと頷いた。 「わかった。続ける」 ジルカが穏やかな声で言った。 「私もキーシュで続けます。それと、海沿いのルートは、いつでも使えるように整えておきます。万が一の時のために」 「助かります」 シェナは静かに、でもはっきりと言った。 「薬草の採取量を増やせる場所を、最近見つけました。許可が取れれば、来月から供給量を増やせます」 「許可とは」 「トレネの外れの森の所有者が、町の商人です。話せばわかる人だと思う」 「交渉してみます。必要なら、ゴードンさんに同行してもらえますか」 「もちろんです」とゴードンが頷いた。会議が終わった後、三人はその日のうちに帰った。
見送りに出たエリナに、マグダが最後に言った。 「エリナちゃん」 「はい」 「あんたは、七つの時から変わらないね」 「変わっていないですか」 「変わってる部分もある。でも、根っこは変わらない」マグダが少しだけ目を細めた。
「最初に豆のペーストを持ってきた時から、ずっと同じ目をしてる」
「どんな目ですか」 「次のことを、もう考えてる目。それが、あたしは好きだよ」 馬が街道に向かった。 エリナはその背中を、少しだけ見送った。現場責任者たちが帰った翌日、エリナは一人で作業場に入った。
特に何かがあったわけではない。ただ、少し一人で考えたかった。 棚に並んだ薬草の瓶を見た。石鹸の型を見た。蒸留器を見た。 一年半前、ここには何もなかった。 台所で一人、石鹸の型を作っていた。 今は、作業場がある。現場責任者が三人いる。各町に流通がある。学院との連携がある。王宮に定期的に数字が届いている。 積み上がったものは、確かにある。 でも同時に、削られているものも、感じていた。 具体的に言葉にするのが、難しかった。 でも、強いて言うなら——時間だ。 一年という期限のうち、残りは五ヶ月を切った。 五ヶ月で、何を積み上げなければならないか。 一年後、王宮に立つ時、何を持っていなければならないか。 まだ、答えが見えていない。 エリナは棚の前に立ったまま、少しだけ目を閉じた。 前世の記憶の中に、似た感覚があった。 締め切り前の、あの感じ。 やることはわかっている。でも、どこまでやれば「足りた」と言えるのか、基準が見えない時の、あの焦りに似た感覚。 締め切りは、時に人を追い詰めるが、時に人を動かす。 どちらになるかは、自分次第だ。 目を開けた。その日の夕方、珍しくルナが先に話しかけてきた。
作業場の入り口に立って、エリナを見ていた。 「何か言いたそうな顔をしてる」エリナが言うと、ルナが少しだけ頷いた。
「……疲れてる?」 「少し」エリナが正直に答えた。
「そう」 「わかる?」 「わかる。いつもと少し違う。動き方が」 「どう違う?」 「いつもは、次を見てる。今日は、今を見てる」 エリナは少しだけ、その言葉を考えた。 今を見ている。 「それは、いいことですか。悪いことですか」 「どちらでもない。ただ、違う」 「そうかもしれない」 ルナが猫を一匹抱いて、少しだけ近づいてきた。 「これ」 猫がエリナの腕に乗り移ってきた。 「……なぜ?」 「疲れた時、この子が来ると少し楽になる」 エリナは猫を抱いた。温かかった。柔らかかった。 猫がごろごろと音を立てた。 少しだけ、肩の力が抜けた。 「……ありがとう」 「どういたしまして」 ルナが静かに、自分の作業に戻った。夜、レインから手紙が届いた。
データの受け取り報告と、師匠が魔法師団長に提出した、という連絡。 最後に一段落あった。一つ、聞いてもいいか。
今、どういう状態だ。 「大丈夫か」と聞くのは、お前には合わない気がする。お前は必ず「大丈夫」と答えるから。だから、そう聞かない。 ただ、今どういう状態かを聞きたい。 ――レイン――エリナは少しだけ、手紙を持ったまま止まった。
「大丈夫か」と聞かない。必ず「大丈夫」と答えるから。 それは、正しかった。 エリナは、誰かに「大丈夫か」と聞かれると、反射的に「大丈夫」と答える。前世でも今世でも。それが癖だと、自分でも知っていた。 でも、「今どういう状態か」という聞き方には、「大丈夫」とは答えられない。 エリナは紙を取った。 レインへ今どういう状態か、と聞いてくれた。答える。
積み上がっているものは、見えている。薬屋のデータが揃った。現場責任者三人が同じ方向を向いている。学院との連携が機能している。それは確かだ。 でも、削られているものも感じている。時間だ。残り五ヶ月を切った。一年後に王宮に立つ時、何を持っていれば足りるのかが、まだ見えていない。 基準がわからないのが、一番厄介だ。どこまでやれば「十分」かを、自分で決めなければならない。でも、自分で決めた基準が正しいかどうかを、確認する方法がない。 それが今、少しだけ重い。 ルナが猫を貸してくれた。少し楽になった。 ――エリナ――書いてから、最後の二行を少しだけ見た。
ルナが猫を貸してくれた、などということを、手紙に書くつもりはなかった。 でも、書いた。 消さなかった。 レインが「今どういう状態か」と聞いたから、正直に書いた。 それだけのことだ。 封をした。寝る前に、セレーナが部屋を覗いた。
「まだ起きてたの」 「もう寝る」 「手紙を書いてたの?」 「レインに」 セレーナが少しだけ微笑んだ。 「そう」 「ただの状況報告です」 「そうね」 「本当に」 「わかってる」 セレーナが扉を少し開けたまま言った。「おやすみ、エリナ」
「おやすみなさい」 扉が閉まった。 エリナは机の上に残った手紙の封筒を見た。 ただの状況報告だ。 でも、ルナが猫を貸してくれた、という一行は、状況報告ではない。 それでも書いた。 なぜ書いたのか、答えは出なかった。 でも、出さなくていいと、今夜は思えた。 ランプを吹き消した。 窓の外で、風が木の葉を揺らした。 エリナ・アッシュフォード、八歳。 積み上がっているものと、削られているものが、同時にある。 それが今の正直な状態だ。 でも、止まらない。 明日も、続ける。 それだけは確かだ。フィオナがルシェムに来たのは、謁見から二週間後のことだった。 予告なしだった。 朝、市場から戻ったマリオが、息を切らして事務室に飛び込んできた。 「フィオナさんが来た」「どこに?」「市場の入り口。馬車で来てる。荷物が多い」「荷物が多い?」「トランクが二つある」 エリナは少しだけ止まった。 「泊まりではなく、しばらくいるつもりですか」「そういうことじゃないか? 迎えに行くか?」「行きます」 市場の入り口に着くと、フィオナが馬車の横に立っていた。 久しぶりに、ルシェムで見るフィオナだった。 王都で会った時とは少し違って見えた。服装は変わらないが、顔が少し違う。 疲れている、と手紙に書いていた。 確かに、少し疲れた顔をしていた。 でも、エリナを見た瞬間、目が変わった。 「来た」「来ましたね、予告なしで」「予告したら、準備されすぎると思って。あなたのことだから、部屋を完璧に整えて、食事まで用意して待っていそうだから」「そうしようとしていました」「でしょう。だから、言わなかった」「荷物が多いですね」「しばらくいようと思って」 フィオナが少しだけ声を落とした。「王都からの仕事は、手紙でできる部分も多い。しばらくルシェムで動きながら、こちらの空気も吸いたかった」「どのくらい?」「一週間か、二週間か。決めていない」「決めなくていいです。いたいだけいてください」 マリオが荷物を運んでくれた。 フィオナが見ると、少し驚いた顔をした。 「マリオ、大きくなった?」「なってないと思うけど、フィオナさんが久しぶりに会うから大きく見えるだけじゃないか?」「そうかもしれない。でも、なんか違う。顔が違う」「どう違う?」「前より、落ち着いた顔をしてる」「そうかな」
翌日から、エリナは動き始めた。 といっても、急いでいるわけではなかった。 落ち着いて、一つずつ。 謁見の翌日以降に何をするかは、帰り道の馬車の中でゴードンと話し合っていた。 優先順位は決まっていた。 一つ目、商会の代表変更の正式書類を処理する。二つ目、各町の現場責任者に謁見の結果を報告する。三つ目、フィオナと連携して規制案の継続審議への対応を続ける。四つ目、学院の衛生教育の検討に、商会として協力できることを提示する。 どれも、急ぎではない。 でも、止まってもいない。 まず、商会の代表変更の書類が届いた。 アルバ殿下が約束した通り、一週間以内に書状が来た。 正式な書類に、エリナ・アッシュフォードの名前が入っていた。 アッシュフォード商会の代表者、エリナ・アッシュフォード。 ゴードンがその書類を机の上に置いた。 「これで、正式になりました」「そうですね」「どういう気持ちですか?」 エリナは少しだけ考えた。 「思っていたより、静かな気持ちです」「静か、とは」「もっと大きな感情が来ると思っていた。でも、静かだった。当たり前のことが、形になった、という感じです」「それが、正しい感覚だと思います」ゴードンが静かに言った。「当たり前のことを積み上げてきたから、当たり前に形になった」「ゴードンさん」「はい」「代表名義をずっと引き受けてくれていた。本当にありがとうございました」「礼はいりません。でも、受け取ります」 それだけだった。 それで十分だった。 次に、各町の現場責任者への報告をした。 マグダ、シェナ、ジルカに、それぞれ手紙を書いた。 謁見の結果。陛下が約束を守ってくれたこと。商会の活動が引き続き認められたこと。今後も続けることができること。 返事は、それぞれ三日以内に来た。 マグダから。 エリナちゃん
ルシェムに帰った翌朝、エリナはいつもより少しだけ遅く起きた。 目が覚めた時、空はすでに明るかった。 珍しいことだった。 いつもは夜明け前に目が覚める。でも今朝は、光が差し込んでから目が開いた。 しばらく、布団の中でそのままいた。 これも珍しいことだった。 起きたら、すぐに動く。それがいつものエリナだった。 でも今朝は、少しだけそのままいた。 窓の外から、ルシェムの朝の音が聞こえた。 市場へ向かう人の足音。遠くで犬が吠える声。風が木の葉を揺らす音。 帰ってきた、と思った。 昨日も思った。でも、今朝も思った。 ここが、自分の場所だ。 台所に行くと、セレーナが先にいた。 「おはよう」「おはようございます」「よく眠れた?」「はい。遅くまで眠っていました」「そう。今日くらいは、いいんじゃない?」「そうかもしれません」 薬草茶を作りながら、エリナは窓の外を見た。 冬の朝の空は、澄んでいた。 「お母さん」「うん」「昨日、ゴードンさんから聞いた話があります」「何?」「学院が、来年から衛生教育を取り入れることを検討しているそうです。石鹸の使い方、薬草薬の知識、傷の手当ての手順を、学院の教育に組み込む話が始まっている」 セレーナが少しだけ手を止めた。 「それって、どういうことになるの」「学院で教えれば、学院の生徒が卒業して各地に行く時に、その知識を持っていく。一人が届けられる場所より、ずっと広い範囲に届く」「あなたが一年でやったことが、もっと広がるということ?」「そうなるかもしれません」「お父さんが聞いたら、何と言うかしら」 エリナは少しだけ考えた。 「『私よりうまくやっている』と言うか、それとも『まだ足りない』と言うか」「この前も同じことを言ったわね」「同じこ
翌朝、エリナは早く起きた。 今日、ルシェムに帰る。 荷物を確認した。報告書の写し。確認書の写し。殿下から預かったアッシュフォード商会の正式な代表変更に関する書状の下書き。そして、セレーナへの手紙。 全部、ある。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく朝から饒舌だった。 「昨夜の話、全部聞かせてもらうって言ったけど」「聞きますか?」「聞く。でも、今は聞かない」「なぜですか?」「あなたの顔を見れば、大体わかるから。今日は、その顔で十分」「どんな顔をしていますか?」 ゴードンが静かに言った。 「昨日フィオナが見たかった顔」 出発前に、フィオナと二人になった。 宿の前の小さな通りで、少しだけ話した。 「フィオナ、これからどうするんですか?」「王都にいる。まだやることがある。規制案はまだ継続審議のままだ。陛下が認めたとはいえ、クロヴェルが諦めたわけじゃない」「そうですね」「でも、今日は違う話をしたい」「どんな話ですか?」「あなたが帰った後のことを、少し考えた。王都に来てからの一年間、私はずっとここで動いていた。でも、いつかルシェムに行ってみたいと思っている」「ルシェムに?」「マリオとルナに、会いたい。あなたが話してくれた人たちに。あなたが動いてきた場所を、見てみたい」「来てください、必ず」「いつ行けるかはわからない。でも、行く」「待っています」 フィオナが少しだけ笑った。 「その言葉、昨夜もレインに言ったでしょう」「言いました」「同じ言葉が、自然に出てくるようになったんだね」フィオナが穏やかに言った。「前のあなたには、なかった言葉だと思う」「そうかもしれません」「いい変化だと思う」 フィオナが手を差し出した。 エリナはその手を両手で握った。
謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。 アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」「王都のデータは、効きましたね」 殿下が少し笑った。「右側の列が、ざわついた」「見えていました」「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」「ありがとうございます」「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」 王宮の外で、師匠とレインが待っていた。 師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」「はい」「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」「ぜひ」「クロヴェルへの返答だ」 師匠が静かに言った。「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」 エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」「届きましたか?」「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」「礼
謁見の日の朝、エリナは四時間ほど眠った。 眠れると思っていなかったが、眠れた。 目が覚めた時、空はまだ暗かった。でも、もう眠れなかった。 起きて、顔を洗って、薬草茶を作った。 ルナが持たせてくれた葉を使った。 温かい湯呑みを両手で持って、部屋の窓から外を見た。 王都の夜明け前。 ルシェムとは違う空の色だった。でも、夜明け前が静かなのは、どこでも同じだった。 今日、謁見の間に立つ。 もう一度、確認した。 怖い。でも、届けたい。 それだけでいい。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく静かだった。 いつもは何か言う人だが、今朝は食べながらあまり口を開かなかった。 エリナが「どうかしましたか?」と聞くと、フィオナが少し笑った。 「緊張してる」「フィオナが?」「私も人間だから。あなたが緊張するより、私が緊張してる気がする」「なぜですか?」「あなたが上手くいくかどうかを、見ている立場だから。自分が話すより、大事な人が話すのを見ている方が、緊張する」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 大事な人が話すのを見ている方が、緊張する。 「フィオナ」「何?」「今日、謁見の間に入れますか?」「入れない。謁見の場に入れるのは、名前がある人間だけ。私には、今は資格がない」「そうでしたか」「廊下で待ってる。終わったら、すぐ出てくるでしょう。その顔を見る」「どんな顔をしていると思いますか?」「わからない。でも、見たい顔をしていると思う」 謁見の前の十分間は、王宮の廊下の一角で過ごした。 フィオナ、ゴードン、エリナの三人。 廊下は石造りで、冷たかった。外の空気が、石を通して伝わってくる。 エリナは上着の内ポケットに手を当てた。 手紙が、ある。 フィオナが言った。 「今日の目標を、一つだけ確







